第四部:無機化学の基礎 非金属元素
☆ “ホーム” ⇒ “生活の中の科学“ ⇒ “基礎化学(目次)“ ⇒
ここでは,非金属元素の代表的な酸素を含む無機酸に関し, 【オキソ酸とは】, 【オキソアニオンの種類と名称】, 【主なオキソ酸の特徴】 に項目を分けて紹介する。
オキソ酸とは
 オキソ酸( oxoacid )
 酸素酸とも呼ばれ,一般的には“酸素を含む無機酸の総称”と認識されている
 しかし,生化学分野やフリー百科事典「ウィキペディア」では,カルボン酸などの有機酸にまで拡大した解説が見られる。
 無機化学命名法( IUPAC )では,オキソ酸を
 “酸素原子を含み,酸素以外の元素を少なくとも 1個以上含み,酸素に結合する水素原子を少なくとも 1個以上含み,プロトンを失って共役塩基を生成する化合物。”
と定義している。
 この定義に従うと,オキソ酸は,中心となる非金属元素又は金属元素に酸素が,オキソ基( = O )又は水酸基(ヒドロキシル基 – OH ) の形で結合している無機酸となる。
 この定義では,配位している水分子の水素原子が酸性となるアクア酸( aqua acid :Fe(H2O)63+ など),オキソ基( = O )が無いヒドロキソ酸( hydroxoacid : Si(OH)4 など)も含まれる。
 【参考】
 一般的には,次亜塩素酸( HClO),硫酸( H2SO4 ),硝酸( HNO3 ),炭酸( H2CO3 ),リン酸( H3PO4 )などがオキソ酸(酸素酸)に分類され,塩酸( HCl )などハロゲン化水素酸,硫化水素酸( H2S ),シアン化水素酸( HCN )など酸素を含まない無機酸は,水素酸( hydracid )に分類される。
ページの先頭へ
オキソアニオンの種類と名称
 オキソアニオン( oxoanion )
 オキシアニオン,酸素酸イオンなどともいい,XnOmZ-( X は酸素以外の元素)で表される。
 化学式 XOmZ- で表されるオキソアニオンは,元素 X の酸化数とその周期表での位置により定まる。
 酸化数の異なるオキソイオンは,酸化数を区分するため化合物に接頭語(過,亜,次亜)がつけられる。
 日本語の化合物命名の通則(日本化学会)によると,原則として古くから知られているものを○○酸と呼び,それより酸化数が低い順に,亜○○酸,次亜○○酸の接頭語をつけ,酸化数が高いものには,過○○酸の接頭語をつける。
 第 2周期元素( C , N , F など )のオキソアニオン
 炭酸イオン( CO32- )や硝酸イオン( NO3- )があり,平面の三角形型の構造で中心原子と酸素原子とがπ結合をもつ。2 価の陰イオンは,1 個だけ水素を持つ 1 価の陰イオン,例えば,炭酸イオン( CO32- )は HCO3- (炭酸水素イオンという)を作る。
 第 3周期元素( Si , P , S , Cl など )のオキソアニオン
 広く知られるものに,リン酸イオン PO43- ,硫酸イオン SO42- ,過塩素酸イオン ClO4- など四面体型構造のものがある。
 塩素のオキソイオンには,酸化数 7 の過塩素酸イオンの他に,酸化数 5 の塩素酸イオン ClO3- ( 3 つの結合電子対と 1 つの非結合電子対をもつ三角錐形構造),酸化数 3 の亜塩素酸イオン ClO2- ( 1 つの結合電子対と 1 つの非結合電子対を持つ折れ線形構造),酸化数 1 の次亜塩素酸イオン ClO- がある。
 酸化数 3 の陰イオンには,1 個だけ水素を持つ 2 価の陰イオン, 2 個の水素を持つ 1 価の陰イオンがある。例えば,リン酸イオン( PO43- )は HPO42- (リン酸水素イオンという)や H2PO4- (リン酸二水素イオンという)を作る。
 一般に水素を持つ陰イオンを加熱すると水を失い,縮合した陰イオンを作る。例えば,硫酸水素イオン( HSO4- )からピロ硫酸イオン( S2O72- )が,リン酸水素イオン( HPO42- )からピロリン酸イオン( P2O74- )やトリポリリン酸イオン( P3O103- )などができる。
 第3周期以降の元素の単独のオキソアニオン
 高い電荷を持つため,水溶液中ではオキソアニオン同士の縮合(水を失う)が起こりうる。
 例えば,クロム酸イオン( CrO42- )の縮合で二クロム酸(重クロム酸)イオン( Cr2O72- )の生成などがある。

周期表
ページの先頭へ
主なオキソ酸の特徴
主なオキソ酸(酸素酸)の特徴として,名称,オキソイオンの組成式,元素の酸化数,遊離酸(水素化物)の組成式と特徴,塩の特徴や用途を紹介する。
| 名称 | 組成式 | 酸化数 | 遊離酸の性質 | 塩の性質 | 用途例 | 
|---|---|---|---|---|---|
| 次亜塩素酸 hypochlorous acid | ClO- | 1 | HClO,不安定で単離不能 pKa = 7.53 | 不安定で,酸化性が著しい。 | 殺菌剤,漂白剤 | 
| 亜塩素酸 chlorous acid | ClO2- | 3 | HClO2,不安定で単離不能 pKa = 2.36 | 不安定で,酸化性が高い 無水物は爆発す恐れあり。 | 漂白剤,酸化剤 | 
| 塩素酸 chloric acid | ClO3- | 5 | HClO3,炭酸同様に単離不能 強酸 pKa = -1 | 比較的安定,水溶液の酸化性は弱く 加熱で酸素発生。 | 火薬の原料 携帯酸素発生器 | 
| 過塩素酸 perchloric acid | ClO4- | 7 | HClO4,無色の液体 強酸 pKa = -8.6 | 各種陽イオンと安定な塩を作り 酸化性はない。 | 試薬 | 
| 亜硫酸 sulfurous acid | SO32- | 4 | H2SO3,不安定で単離不能 pKa = 1.78 | 安定な亜硫酸塩,亜硫酸水素塩 還元性が著しい。 | 還元剤,脱酸素剤 防腐剤 | 
| 硫酸 sulfuric acid | SO42- | 6 | H2SO4,酸化力,脱水力のある液体 強酸 pKa = -3 | 安定な硫酸塩,硫酸水素塩を作る。 | 工業用原料・試薬 | 
| 亜硝酸 nitrous acid | NO2- | 3 | HNO2,不安定で単離不能 弱酸,pKa = 3.38 | アルカリ塩は安定 相手により酸化剤,還元剤になる。 | 合成用試薬 | 
| 硝酸 nitric acid | NO3- | 5 | HNO3,酸化力のある液体 強酸 pKa = -1.4 | 安定な硝酸塩を作る。 | 工業用原料 合成用試薬 | 
| 次亜リン酸 hypo phosphorous acid | H2PO2- | 1 | H3PO2,別名ホスフィン酸 強酸 | アルカリ金属塩 アルカリ土類金属塩は安定 還元性が著しい。 | 還元剤 | 
| 亜リン酸 phosphorous acid | HPO32- | 3 | H3PO3,固体の弱酸 | アルカリ金属塩 アルカリ土類金属塩は安定 還元性が著しい。 | 還元剤 | 
| リン酸 phosphoric acid | PO43- | 5 | H3PO4,固体の弱酸 pKa = -3 | 各種イオンと安定な塩を作る。 | 緩衝溶液 試薬・肥料 | 
| 炭酸 carbonic acid | CO32- | 4 | H2CO3,単離不能 弱酸 pKa1 = 6.35 | 各種イオンと安定な塩を作る。 | 工業用原料 | 
| ケイ酸 silicic acid | SiO44- | 4 | H4SiO4 は存在せず 重合してゲル状の固体 弱酸 pKa1 = 9.86 | アルカリ金属塩は水可溶。 | ガラス,陶磁器 水ガラス原料 | 
ページの先頭へ